旅の訪問日記アジア編

●バンコック、歓楽街でのインタビュー

  売買春問題に取り組むグループがあったら教えて欲しいとバンコックポストに連絡したところ、『EMP♀WER』というグループを紹介された。

 連絡をとると、スクンビット通り、ソイ23の歓楽街で、机を出してコンドームなどを配っているので来たら、とのこと。話もそこでしましょうということなので、夜、出かけていった。パッポンほどではないが、ネオンがきらめく。中をのぞくと女性達がガンガン冷房のきいた店内のステージの上で水着姿で踊っている。通りにもお客をつかまえようと女性たちが沢山たむろしている。日本人客は見かけず、ほとんど欧米人のようだった。やはり日本人は歓楽街タニヤに行くのだろう。


 中程に、小さな机と、コンドームやパンフレットを並べ、置いているEMP♀WERの女性たちがいた。
 スクンビットの責任者のChowpooに話を聞いた。とても流暢な英語を話す。話をしている間中、パッポンオフィイスから来たという5~6人がコンドームと書かれたピンクの三角帽をかぶって、ストリートを行き来して、途中いろんなパフォーマンスをして、周りの女性達の笑いを誘っていた。


 『EMP♀WER』というのは、Education Means Protection of Women Engaged Recreationの略だそうで、設立は、1986年。
 彼女たちの活動のはじめは、ここで働く女性たちを集めての英会話教室だったそうで、それは今でも続いている。なぜ英会話かというと、英語が少しでもしゃべれれば、お客ときちんと値段交渉ができるし、人間関係も作りやすいからだそうだ。英語が話せないが故に、約束したお金を払ってもらえなかったり、暴行され、レイプされた上、首をしめられ、逆に、彼女達のお金を盗んで逃げられたりする事件がたびたびあるのだという。そこで、まずは簡単な英語でよいから覚えて、だまされないようにしよう、それが結局は、彼女達自身を助けるのだからということでクラスを始めたと言う。
 そして、彼女達と話をしていくなかで、別の道、別の生活、生き方もあるのだということ、勉強をしたいのなら方法もあること、田舎の生活では必要無いが、都会では知っておかねばならない生活の知恵、エイズや健康についても話をしていっているそうだ。EMP♀WERの目標のひとつは、彼女らの希望する新たな生活への架け橋の役目を努めることだそうだ。


 次にここで働いている女性達の事をきいたら、90%以上は東北タイの貧しい農村地帯の出身者で、15才位の少女からいるという。スカウト専門の人に連れてこられる人もいるし、お店のママさんが自分の出身の村などを回ってリクルートすることも多い。そのため、お店の女性が全部同じ村の出身ということもあるという。学校は平均して2年くらいしか行っておらず、4年いっておればよいほうだという。最初はゴーゴーダンサーとして働くけど、ある程度の年になって踊れなくなったら、そのままママさんになったりする人もいる。
 彼女たちの毎月の送金額はひとによってマチマチだけど、たとえ1000バーツ(当時約4500円)でも出身地の村びとにとっては大金。だが、大部分の家では“家を建てたい”という希望があって、そのためにはかなりまとまったお金が必要だし、さらに、家をたてれば建てたで生活が派手になり、ますます彼女たちの送金負担は重くなり、そのあげく、ここから海外へと出稼ぎに行く人もいるという。


 ここで働く人の一番の問題は何かと聞いたところ、「友達がいなくて孤独感が強いこと」だという。たとえ同じ村の出身者でも、周りは皆ライバルでお客の取り合い。悩みを聞いてもらったり、相談する相手がおらず、精神的に不安定で、時には精神障害を起こす人もいるという。そこでEMP♀WERでは、彼女たちの友達、なんでも話せる相談相手なのだということを知ってもらい、いつでも気軽に話に来て欲しいと、ことあるごとにアピールしているという。タイのフェミニストグループのなかでも、フィールドで取り組んでいるのは自分達だけだろうとも言っていた。


 タイの人たちのEMP♀WERに対する理解は、と聞いたところ、みんな私達の事を変な人たちだと思っているらしい、という。タイ政府は建て前は売春を禁止しているが、実際は外貨獲得の大きな収入源として、見てみぬふりで、お店から警察にはワイロが回っているという。ちなみにこの辺りだと一件、月4500バーツ(92年)。また一般の人も性産業で働く人を“汚れた人”と差別する傾向があり、さらにタイの女性も、夫に「遊ぶならプロの人と」という意識があるという。


 最後に今後はどのようなことに力を入れて活動していくのかを聞いたところ、“買う側”への働きかけを強調していきたいと言う。ここでのパフォーマンスも買う側に関心を持ってもらいたいと言う意味があるそうだ。コンドームを配ると言うのは、売春を容認しているわけでは、もちろんなく、女性の身体を守る非常手段。欧米人はエイズなどについて、ここの女性たちより知識があるはずなのに、コンドームをつけたがらない人が多く、驚いたことにコンドームなしでセックスをするとチップをあげるという人が沢山いるという。また、前にも書いたように、レイプや暴力、お金を盗んだりする事件も多いので“彼女たちとお客は対等な人間なのだ”ということを今後は強く訴えて(お願いするのではなく)行きたいと言う。ここに机を出しているのも、“勝手なことはさせないゾ”という圧力をかけ、監視の目を光らせているんだということをアピールするのに役立っているという。


 2時間も話をしてくれて、彼女のストレートな気持ちが伝わった。彼女が「あわれみや同情はいらない、ここの女性達は自分と同じ人間なんだということを分かって欲しい」といっていたことが印象的だった。